初の正立透視型ローディング方式
その後のカセットデッキスタイルの源流がここにある!
○このデッキの特徴
本製品は、SONY初(世界初だったかも)の「正立透視型」カセットローディングのコンポスタイルデッキである。そして、これが本製品の最大の特徴となっている。 「正立透視型」とは、ローディング後にカセットが正立(ヘッドとのコンタクト部分が下側になる状態)し、なおかつ、リッドのドアに開いている窓を通してローディング後のカセットの状態を目視(透視)できるタイプである。 コンポスタイルのデッキは、アンプやチューナーなどと一緒に重ね置きができ、省スペースになるため、本製品以前から普及が進んできていたが、当時はまだ、カセットを水平(又はやや斜め)にローディングするものばかりで、テープの状態は覗き込んで確認するか、そのための鏡がリッドの奥に付いていたりしていた。 一方、Nakamichiの700や1000など、カセットを垂直にローディングする機種もあったが、ヘッドが横や上方向に付いているため、カセットは正立状態ではなかった。(Nakamichi機はドアの開口部が全く無いか、あってもも小さいため、透視もできなかった。) 「正立」し、かつ「透視」できることにより、テープの残量確認はもちろんのこと、ローディング後もインデックスラベルの記載内容を簡単に確認することができるだけではなく、カセットが回転している様子を眺めることで録音や再生を視覚的にも楽しむことができるようになった。 その後は当たり前となった正立透視ローディングだが、当時はテープを走行させるため回転部材を垂直配置し、なおかつ、低速で安定した回転を長期間維持するためには技術的な課題があった。 本製品は、それを克服するため、いろいろと工夫されている。 当時のカタログによると、「使用モーターは電磁振動が極めて少なく滑らかな回転をする6極ヒステリシス・シンクロナス・モーターを使用。ローターのダイナミックバランスはもとより、シャフトの真円度までμ(1/1000ミリ)以下の単位で厳しく追及しています。」 これにより、ワウ・フラッターの値は当時トップクラスの0.07%(WRMS)を達成している。 以上のように、正立透視ローディングが本製品の第一の特徴だが、その特徴を活かし、また、アピールするための製品デザインもよく考えられている。 全体的には、当時のSONYの高級コンポシリーズである「ES-U」のアンプやチューナーと重ね置きした場合に統一感が取れるよう、イメージコンセプトを合わせてある。 スイッチやボリュームのノブもES-Uシリーズと共通のものを使用しているため、全体的に落ち着いた高級感のあるデザインとなっている。 |
* ES-Uシリーズコンポ「Listen-Y」との組合せ例 *
(当時のカタログから)
正面左側に位置しているトランスポート部は、全体がベースパネルより若干浮き出ており、その左上部分がカセットリッドのドアで切り取られているというスタイルになっている。 起伏と黒枠が効果的に使われ、大きなカセットドアの窓にまず目が行くようなデザインになっている。 |
* パネル左半分のトランスポート部分 *
そのカセットドアも、金属製のドア(実際はプラスチック製で、アルミ板が張ってある。)に窓が切ってある感じで高級感がある。 |
* カセットドア部分 *
ドアの下にはテープの操作レバーが並んでいる。いわゆるピアノ式の横並びであるが、レバーの先端が色分けされており、また、停止レバーがやや大きくなっているため分かりやすい。 パネル右寄りの上部にはレベルメーター、その下に各種スイッチが、そして、パネルの最も右端に入力ボリュームが配置されている。 |
* メーター及び各種スイッチ、ボリューム *
それぞれの位置、スイッチやノブの大きさや形もよく考えられており、絶妙である。 さすがにSONY。操作性とデザインの良さが両立している。 正立透視をウリにはしているが、それだけで終わるのではなく、さらにデザインや基本性能の完成度を高めて製品化してしまうところが当時のSONYらしさだと思う。 本製品のパネルレイアウトは、その後のSONYのカセットデッキの基本となった。 |
○操作性
パネル左上にある四角い電源スイッチを押す。リッド内の照明が点灯し、電源が入ったことが分かる。 左右メーターの目盛も少し青緑色に明るくなる。黒地に青緑の目盛が浮き出るというカラーリングは高級感がある。 が、しかし、である。透過照明になっている目盛の明るさがイマイチ、と言うか、全然明るくない! 周りを暗くしないと点灯していることが分からない位である。 |
* 上:点灯状態、下:消灯状態 *
40年以上の経年劣化なのか? とも思ったが、裏側の豆電球自体は煌々と輝いているので、どうも、もともとの仕様のようである。 しかも、豆電球は各メーターに2個ずつ付いていることからして、設計時から、透光性能の悪いメーターパネルという自覚はあったようである(笑)。 もっとも、透過照明がなくても、メーターの文字ははっきり読めるので、操作上は問題ない。 イジェクトレバーを押すと、カセットリッドのドアを兼ねたカセットホルダーがガチャッと開く。 そういえば、SONYのデッキにソフトイジェクト機構が装備されたのはTC-4300SD以降であり、本製品発売当時は、高級機であろうとハードイジェクト(?)が当たり前だったのだ。 ホルダーにカセットを装着し、ドアを閉めるとリッド奥の照明が点灯する。 この照明によって、カセット内部のテープ残量がはっきり確認できるだけではなく、テープが回転している様子も良く分かる。 続いて、録音の準備に入る。 まず、録音レベルの調整をするために、録音レバーを押す。 録音レバーは、カセットドアの下にあるピアノキー式の操作レバーの一つになっており、鼻先の部分が赤く着色されている。 ちなみに、送りボタンは緑、停止は黒、早送りと巻き戻しは青、少し離れた位置にあるポーズボタンは黄色となっており、正面から見ると結構カラフルである。 |
* カラフルな操作レバー *
録音レベルはパネル右端の回転式ボリュームで調節する。ボリュームは2つあり、上がLINE入力用、下がMIC入力用である。 ボリュームノブはアルミ削り出しで大変に高級感がある。 また、この回転式ボリュームは左右同軸で独立で動かせる。(右のレベルだけを変える場合に左をおさえておく必要がない。) |
* 高級感のあるボリュームノブ *
メーターは、この時期のものとしては比較的大型のVUメーターで、LEDのピークレベルインジケーターがついている。 レベル調整が終わったら、いよいよ録音開始である。 録音を始めるには、録音レバーと送りレバーを同時に押す。 テープ操作にピアノキー式のレバーが使われているので、一見すると、レバーのストロークで操作する機械式のように見えるが、実は、ソレノイドを使った電磁式のため、レバーを押す力はさほど要らない。 また、停止レバーを介さずに早送り、巻き戻し、送り相互の直接切替が可能なダイレクトチェンジ式となっている。 ダイレクトチェンジにするためには、テープ絡みを防ぐため、前の操作から次の操作の間に完全停止が必要となる。そのため、例えば「送り→巻き戻し」の操作をした場合、「送り→停止→巻き戻し」という手順で動くよう、ロジック回路を使って機械に動作指令する製品が多い。 しかし、本製品にはこのようなロジック回路は使われていない。本製品の発売当時は、ロジック回路を組むと相当なコスト高になってしまったことが原因と思うが、本製品の場合、機械式というかカラクリのような仕掛けで、ロジック的な動作を実現させている。 具体的には、送り、早送り、巻き戻しの各レバーを押した場合、押した瞬間に動作し始めるのではなく、レバーを押し切ってから一瞬の後に動作が始まるようになっている。 例えば、再生中に巻き戻しレバーを押すと、ある程度押したところで送りレバーのロックが外れて戻り、停止状態になる。 巻き戻しレバーをさらに押し下げると、カチッとロックがかかり、併せて内部の機構がバネで少し戻る仕掛けになっている。その戻る部分の先がソレノイドのスイッチにつながっており、巻き戻し動作が始まる、という具合である。 要するに、1つの操作レバーを押すだけで、「停止」→(間)→「次の操作」を実現させる「ロジックコントロール」になっているのである。 操作レバーは軽いが、機械的な仕掛けを動かす必要があるため、ある程度の力とストロークが必要で、さすがにソフトタッチという訳にはいかない。 また、録音とポーズに関してはソレノイドが使われておらず、全くの機械式である。 よって、さすがにリモコン操作はできない。 ソレノイドの音はやや大きいものの、その分、動きは力強く機敏である。 いかにも機械が動いている、という感じでもある。 パネルの右側、メーターの下にある各種スイッチ類は、高級感のある黒いレバースイッチで、操作性も良い。 テープセレクタはバイアスとイコライザを別々にセットする方式で、フェリクロムやクロムテープが使用可能である。 さらに、ドルビー(Bタイプ)と当時のSONYデッキの標準装備である「リミッター」スイッチも並んでいる。 パネル面にはマイク入力ジャックが装備されており、マイクミキシングも可能である。 また、当時のSONYデッキの特徴として、ライン入力のジャックがパネル面に設けられている。これは、他のデッキなどを一時的に接続して録音するのに便利である。 |
* スイッチ類のレイアウト *
その他の機能としては、高級機らしく、メモリーカウンターが装備されている。 |
○音 質
音質は明るく、メリハリのある音である。 いわゆる「ソニーサウンド」だと思う。F&Fヘッド機独特の音と言っても良いかも知れない。 F&Fヘッドというのは、SONYのフェライトヘッドの愛称で、コア部だけではなくガード部にもフェライトが使われている。そのため、パーマロイに較べて約200倍と言われる耐摩耗性があり、摩耗によるギャップエッジの崩れがなく、音質の劣化が起こりにくい。 まあ、40年物の機械なので、さすがに各所劣化しているとは思うが、摩耗に強いヘッドのおかげで、今聴いても音の解像度が高い。 耐久性のあるACモーターも健在で、回転も安定している。 あくまで2ヘッド機なので、80年代以降の高級3ヘッド機のように、ソースとテープの音の区別がつかない、という音のレベルとは違うが、当時としては素晴らしい実力を持った高級機だと思う。 さらに、40年を経た現在でも、当時の精度を保ちながら稼働するということも驚くべきことであると思う。 |
○まとめ
技術的に難しいといわれていた「正立透視型」ローディングを初めて実現しただけではなく、カセットデッキとしての性能も高い本製品は画期的なものであった。 「正立透視」は、気軽に素早く録音・再生ができるカセットの使い勝手をさらに高めただけではなく、テープやメーターの動きで音楽を正面から視覚的に捉えることができ、録音する楽しさ、デッキを使う楽しさをあらためてユーザーに気付かせることになったと思う。 本製品以降、「正立透視型」はカセットデッキの標準仕様となっていく。 そして「正立透視」により使い勝手の良くなったカセットデッキは、オーディオ製品としての黄金期を迎えることになる。 本製品は、その大河のようなカセットデッキ黄金期の源流となる製品と言えるだろう。 |
○機 能
あくまで、発売当時には特徴的であった機能である。 ・フェライト&フェライトヘッド採用 ・FETダイレクトカップリングアンプ ・ロジカルコントロール ・ドルビーノイズリダクション(Bタイプ) ・バイアス、イコライザー独立切替式テープセレクター(Fe-Crポジション付) ・ソニーリミッター録音方式 ・連続留守録音/再生可能 ・メモリー付きテープカウンター ・オートシャットオフ ・マイクミキシング機能 ・フロントLINE入力ジャック ・ライン出力ボリューム ・マイク入力(ライン入力とのミキシング可) |
* デッキ裏側 *
○スペック
・ヘッド:録再1、消去1 ・モーター:6極ヒステリシスシンクロナスモーター ・使用半導体:トランジスタ48石、FET2個、IC2個、ダイオード44個、発光ダイオード1個 ・総合SN比:55dB(ドルビーOFF、ピークレベル、再生イコライザ70us) 53dB(同、再生イコライザ120us) ・周波数特性:20〜17,000Hz(フェリクロムカセット・クロミカセット) 20〜15,000Hz(一般カセット) ・ワウ・フラッター:0.07% ・総合歪率:1.7% ・大きさ:440(W)×170(H)×310(D) ・重さ:12s ・消費電力:28W ・価格:\99,800 |
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